<巨人2-0ヤクルト>◇14日◇東京ドーム

 巨人山口鉄也投手(29)が、中日浅尾が持つ通算153ホールドの日本記録に並んだ。ヤクルト戦の2点リードの8回に登板し1回を無失点。セ・リーグ一番乗りの10勝目に貢献した。昨季はプロ野球史上初の5年連続60試合以上の登板を達成。まだまだ鉄腕記録を伸ばしていきそうな左腕の思考回路は、どうなっているのか。担当記者が、山口の脳内に「潜入」を試みた。

 脳内に潜入してみてまず分かるのは、この偉大な記録に全く興味がないという仰天の事実だ。

 山口

 ホールド数…。へぇ、そうなんですか。何個ですか?

 153。誰に並んだんですか。浅尾。なるほど…。ま、僕はいいですよ。チームが勝てばいい。

 登板当日の朝にこの反応。謙遜ではなく、純粋な思考と判断していい。救援失敗はめったにないが、打たれた後の常軌を逸した行動を追えば、チームに対する強い責任感を証明できる。

 山口

 食事をしているところを、人に見られたくないんですね。迷惑を掛けたのに「アイツ、打たれたのに食事なんかしてる」って、思われるのが嫌なんです。

 松屋の牛丼大盛りを、自動ドアに一番近いカウンターの手前で、小さくなって食べる。あるいは中華料理店に入り、ラーメンライスをかき込む。もっと落ち込んでいる時は、コンビニにこっそり並んで、空揚げ弁当を2個買って、部屋で食べる。20代前半~中盤の長い間、痛打された後の行動は、この3パターンに絞られていた。

 一番の問題は、なぜ彼だけ投げ続けることが出来るのか、だ。「勤続疲労」という定説を覆した極意があるはずだ。そういえば、ここ数年、夏場を過ぎると、右脳の奥にしまっている言葉を必ず口にしている。

 山口

 クリーニング手術っていうんですか。あれ、やってみたいんです。クリーニングって、体をリセットするような印象があるんです。

 実際オフに検査を受けるが「クリーニングしたい」という申し出は、いつも却下されている。正真正銘、どこにも問題がないのだ。ここで、次の思考が生まれている。

 山口

 家族に感謝、です。こんなに丈夫な体に産んでくれた両親。そして、嫁さん。嫁さんにも感謝しないといけません。節目の記録だったら、なおさら。

 11年オフに結婚した。亜希夫人がいつも笑顔で、食事の準備をして、帰りを待っている。ストレス解消の“どか食い”をする必要がなくなった。体がギュッと締まり「勤続疲労」の決まり文句を乗り越えた。

 鉄腕の脳内は、徹底したフォア・ザ・チームの精神と、家族への感謝が50%ずつを占めていた。【宮下敬至】

 ◆ホールド

 セーブの付く条件で登板しリードを守るか、同点で登板し無失点の中継ぎ投手に与えられる(勝利投手は除く)。セーブの付く条件は(1)3点以内のリードで登板し、1回以上を投げる(2)塁上に走者がいる時、走者プラス2点以内のリード(走者1人=3点以内、2人=4点以内、3人=5点以内)を守る(3)3回以上を投げてリードを守る。現行の規定は05年から。